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名越武芸帖
其の二 新しさの意味
お久しぶりです。覚えてもらえたでしょうか?名越です。毎日せっせと働くゲーム屋さんです。
さて前回で、ゲームに必要な3カ条を出しました。おさらいすると、

(1) ルール : 遊びを成り立たせ理解させる仕組みができていること。
(2) 目的 : 勝負の目標、遊びたいと思える理由がはっきりしていること。
(3) 上達 : スキル(コツ)が感じ取れること。遊ぶ度に上手くなれるようになっていること。

でした。今回は上記3つを踏まえた上で、さらに”面白い”と言われるための方法論を、簡単ではありますが考えてみます。
でもその前に”面白いゲーム”と”売れるゲーム”の関係について触れさせて下さい。
皆さんは両者の関係に、どういうイメージを持ってますか?
まずは”面白い=売れる”ですね。これが一番健全です。中身と結果が伴ったという一番ハッピーな形です。
次に”売れたけど面白くないゲーム”という場合があります。これは結構、皆さんも経験があるでしょう。
プレイしてみて「何だこりゃ!?」ってパターンです。
この場合の多くは、前述の3カ条が肝心のゲーム内容の中でキチッと守られていなかったり、あるいは、いわゆる「固定ファン」に支えられてタマタマ本数が出ただけとか、どちらかだと思います。
更に”面白いけど売れないゲーム”もあります。この場合のおおよその理由は、2種類のケースだと思います。


一つはマーケットの狭いものです。
面白さの基準とは、最大公約数の評価のみでは決まりません。評価が一定せず個人単位で違う理由です。
誰かが”面白い”と言っても、みんながそうとは限りません。
俺も個人的に”ドえらい面白いと感じたモノ”でも周りの反応はサッパリだったりする場面に出会います。
つまり魅力に偏りが生じやすく、熱烈なファンは出来ても数は出ない、そして”売れない”と言われてしまうケースですね。先ほど言った「固定ファン」に支えられるケースの理屈に似ています。
そして、2つ目のケースは、”古いモノ”です。
極端な例で言うと『スーパーマリオ』は1000万本売れた素晴らしいゲームです。上記の3カ条も、勿論入っています。でも、全く同じ仕組みのモノを、今もう一度作っても、まず売れないでしょう。
一度出会ったものには「飽きる」「慣れる」という感覚が生じてしまうので「驚き」に欠け、購買意欲につながらないからです。そしてやはり”売れない”という結果が出ます。


では話を戻しましょう。”面白いゲーム”にとって大切なモノです。
俺の個人的な結論はたったひとつ。「ゲームを成立させる3カ条を守った上で作られた新しいモノ」です。
俺にはこれしか思いつきません。毎日こればっか考えてます。
「どんな些細な単位でも”新しい”と言われるモノを作り出す」これが俺の仕事です。言い切ります。
「新しい」は素晴らしい事です。
「懐かしさ」のもたらす趣や「扱いやすさ」や「簡単さ」のもたらす安心感にも十分な価値を感じますが、少なくとも俺にとっては「新しさ」もたらす興奮には勝てません。
勿論インターフェイスや、マーケットも十分に意識します。
でもそれらを意識する背景をたどると、必ず「新しいモノを求めるため」という気持ちに帰ってきます。
勿論簡単にはいきません。「新しい」けど例の3カ条が満たされていなかったり、その逆だったり、胸張って製品にするまでは大変です。
でも、何故そんなに「新しさ」にこだわるのか? 先ほど言った”面白いゲーム”と”売れるゲーム”の関係の所を見直して下さい。
”売れたけど面白くないゲーム”の理由は、キチンと3カ条を守ることで防げます。この作業も大変とは言え、ユーザーから見ればプロとして、できて当然の義務の領域とも言えます。
一番大切なのは”面白いけど売れないゲーム”にならないために、マーケットの考慮と「新しさ」の提案で勝負することです。
特に「新しさ」の提案を武器にできれば、マーケットという「好み」や「流れ」の領域さえ越えていくことが出来ると思います。今まで興味のなかった人達、もしくは、むしろ避けていた人達でさえ引き込んで触れさせるような計り知れない魅力が「新しさ」にはあります。
例えば「怖いのは苦手だけど『バイオハザード』って皆があんなに”怖い”と言ってるのを聞いてたら、ちょっとだけでも見てみたくなってきたなぁ」とか「人前に出るのは好きじゃないけど『DDR』のパネルを踏むと何が起きるんだろう?一度は踏んでみたいなぁ」とかいった感覚は、真に見たことのないモノへの興味以外、何物でもありません。
全ては「新しい」から手に入るものです。
そして「古い」は”つまらない”訳です。少なくとも俺にとっては。


でも、実際には「新しさ」を求めていく上で、色んな問題も出て来ます。
例えば「我々の作るものは新製品です。だから新しい部分がないとイケナイんだ!」。
上のような言葉を言ったら、きっと誰もが「うん。そのとおりだ」と一応、言ってくれると思います。
が、いざやるとなると、なかなか実行できないものです。
人間の心理の根底には、初めて見るモノに対しては、一発、批判をカマしたりとか、変に躊躇したりというネガティブな部分もあると思います。開発者も同様です。
しかし、現実に自分がビデオデッキや携帯電話を買うときに、価格面やデザイン面に大きな問題を持っていなければ、基本的に新しいモノを買うでしょう?
お金を払う際には、皆、新しいモノを選んで払います。
だからどんなことがあっても新しい部分がなくてはダメです。同じで良いはずがありません。
「変えなくてもいいんじゃないか?」なんてとんでもない!!
それは逃げているか見失っているだけで、大きな間違いです。
ヒットさせるためには選んでもらわなくてはなりません。そして、選んでもらうためには、新しい部分がなくては話になりません。
俺はこの商売を続ける以上「新しさ」の追求には、ずっとこだわり続けます。
そして自分の考えた「新しさ」が単なる変更や変化ではなく、進化の領域に手が届くことを夢見て、毎日せっせとがんばってる訳です。ではまた。
『ゲーム批評』 2000年3月号掲載
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