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名越武芸帖
其の十三 ゲーム制作の才能
 最近いつも時間がないです。ゲーム制作のつらいところは(というか全ての仕事はそうですが)仕事を覚えると、それを応用する前に次に覚えなければならない事がすぐにやってくることです。仕方ないんですけどね。でも「もっと才能があったら楽かもなぁ」と思う時もあります。もっと才能があればもっと早くでき上がって、もっと寝れて...もっと酒を飲む時間もあって...あぁ...。
と言う訳で、今回は「ゲームの制作の才能」についてのお話です。

 ゲームにおける才能というかモノ作りの才能って、基本は結局「状況把握の能力」と「先見性」だなぁって、最近よく思います。
 ちなみにここで言う「状況把握の能力」とは「現状でココはこうなっている。そしてアソコはこう」といった指さし確認的な意味だけのものとは違います。そして「先見性」って言うと、すぐに予知能力的な、それこそ占い師スレスレの「これだ!」と唱えてしまうようなスタイルを思われるかもしれませんが、そうではありません。
 俺の思う「状況把握の能力」と「先見性」とは、それらが一体になったものです。
じゃぁ例えば同じくモノを作るとして、ゲームではなく、畑があって、そこから果物を収穫して商売をするとしましょう。まず何をしましょうか?
畑の大きさを測ったり、種を買ってきたり、作業内容を確認しますかね。で、これが「状況把握」の基礎です。
 そして同時に「先見性」を働かさなくてはいけません。例えば「どのぐらいで育つのか」とか「どの程度の収穫量が見込めそうか」とかいったモノ。これが「先見性」の基礎です。
 そしてそこまで調査と予定がたったのなら、一応何かは収穫できるかもしれませんね。でもこれだと博打に近い。受け身的に結果を待つ姿勢が強すぎます。
 じゃぁどうするか?もっと能動的にやる事があるはずです。そう。能動的なファクターが欲しい。それは「欲」の部分です。
 では今度は更に「欲」を出して「状況把握」と「先見性」を同時に突き詰めて考えていきます。
 例えば「せっかく育てるのなら、できるだけ沢山収穫したい。どうすれば良いか?」とか「もっと早く育たないのか」「最も美味しくするためには?」といった感じです。
 そしてこうなると、考える余地はきっと沢山出て、いくつかの事に気づきます(発見します)。
 「味を良くするためには、気温が寒いほうが良いらしい」とか「早く育てたければ、沢山雨が降る方が良い」とか「収穫量は発芽率に比例する」とかね。
 そしてひょっとしたら、過去の平均気温や降雨量は条件がかなり悪かったり、土が痩せていて発芽率に対して悪い条件だったり、それらのいくつかが重なっていたりと、そういうことも解るかもしれません。
 そして判断する。
 「だめだ。将来性が無い。場所を変えよう。」とか「今ある問題は水だけだ。スプリンクラーで何とかなる。問題ない」とか「果物は合わないが、野菜なら良いものができそうだ。どうしよう?」とかね。
 ここまでできたら、この人は果物を作る才能がある人と言えると思います。
 ではここまでの彼の考え方、行動をひも解いてみると...
 これは商売をうまくやるため、強いては「欲」を満たそうとするために、商品の「質」と「量」を高めることを求めた結果、行った事だと言えます。そしてそのためには「状況把握の能力」と「先見性」を同時に考えて、栽培を検討する過程が必要になった訳です。
 でも、もし表面だけの「状況把握の能力」と「先見性」だけで判断していたらどうなっていたでしょうか?それこそ夢中になって種をまき、予定表通りに水をやり、肥料をまいても.....だめだったかもしれません。
 先程の重要なポイントに全く気がつかなかったかもしれません。
 解るでしょうか?細かいそういうことを気にかけるためには、どうしても「状況把握の能力」と「先見性」をもって、問題の摘出をしなくてはならない。そして「質」と「量」を高めることを求めるためには「欲」がなければ、そこまで深く考えられないことが。
 これが俺が考えるところのモノ作りの才能です。これらを同時に考えることができて、判断が出来て、そのため行動できることだと思います。
 そして「欲」とは「状況把握の能力」と「先見性」を開花させるエネルギーになるモチベーションであり、情熱とも言える訳です。
 その「欲」は果物作りに対するこだわりかもしれないし、消費者への愛情かもしれないし、お金かもしれない。そして「欲」抜きで何かを作って、何かを収穫して、いくらかでもお金になれば良くて、そこまでする気もない。というのもありなのでしょうが、それは才能があるとは言えない。つまりより良い成果物が得たかったら、これらの全て、つまり才能が必要になります。
 そして「人より才能が高い」ということを表すとすれば、これらのことが人より、早く、確実にこなす事ができる人のことを指すんでしょうね。

 すみません。長々となってしまいました。別に園芸教室をしてるつもりはないので、ゲームの話に戻しましょう。先程は美味しい果物でしたが、ゲームではもちろん「面白いゲーム」を作ることにテーマが変わります。でも結局「状況把握の能力」と「先見性」と「欲や情熱」の3つがポイントであることは変わりません。
 例えば仕事でトラブルが起きた時に(技術面も感覚的な面も)これを続けるか?あきらめるか?一部の仕様変更か?どんな変更か?等の選択をする時も「トラブルのミソ」をこれらのポイントから割り出して解決することになります。
 そしてこのポイントに対して一人ひとりの認識が浅いと制作のテンポは遅くなり、制作に時間がかかってしまう割に成果は出ず、おまけに沢山の落とし穴を自ら生み出すことにつながってしまいます。そして、面白くないまま...
 あ、あともう一つ言いたいのが、せっかく「状況把握の能力」と「先見性」がありながら、それ止まりで終わってしまっているもったいないケースもあったりします。簡単に言うと、せっかく問題に気づいてるのに、その場で解決しないで先送りにしてしまうケース。これは甘く見ない方が良いです。
 例えば「ココのところイマイチなんだけど、どうかなぁ」なんて言う時に「まぁ作りながら何とかしようか...」なんて言いながら進めてしまう時って確かにあるんですが、実際、本当にちゃんと「作りながら何とかなった」ためしなんて、まず無いです。大抵は後々になってから、その小さな後回しが大きな壁となってしまう事がほとんど。「いや、俺はあんまり無いなぁ」と言う人がいたら、それは本当に後回しにしても良いことだけを後回しにしたからか、問題だったことをそのまま忘れてしまっているか、どちらかだと思います。
 でもこうやって偉そうに言っている俺も、その手の失敗は大きなものから小さなものまで、死ぬほど沢山経験してきました。今思い返しても大反省です。でも俺はこの手の失敗事って忘れません。ほとんど覚えています。
 やっぱり悔しいからでしょうね。
 自分のうかつさや、能力の低い部分をまともに感じる部分ですからね。でもそれ自体が大切な財産です。
 でもね、特に若い人に言いたいんですが、若いうちは自分がモノ作りに対して「確信犯」になることを目指して欲しい。
 今回はモノを作るため才能と呼べる検証方法を紹介したんですが、それらを十分に検討したなら、最終的には「俺はこういう意図でやったんだ」と言い切って作って欲しい。
 でないと失敗が「失敗の価値」を持たなくなる。つまり、悪い結果が出ても悔しくない。
 そして良い結果に対しても嬉しさのテンションも低くなります。それはもったいない!
 もちろん失敗をして欲しくはないけど、悪いと悔しい。良かったら思いっきり喜べる。と常に感じられるようでいて欲しいです。これは肝心な所です。
 そして結果、商売も繁盛していれば言うことなし。でもそれは今度はプロデューサーの仕事。
 俺はウチのスタッフが美味しい果物を作ったらそれを沢山売らないといけない。
 そのプレッシャーはあります。だって素晴らしい果物が育っても、収穫するための工賃を勘定したら全く儲けが無かった。なんていったら悲惨ですからね。ではまた。
『ゲーム批評』 2002年1月号掲載
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