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名越武芸帖
其の十四 そういえば、業務用って…
 ええと、今回は初めて原稿が落ちそうになってます。でもさぼっていたからではなくて、仕事が絶好調なんですよ。なので忙しすぎて原稿が後回し気味になって、つい...そこで前もって言い訳なのですが、今回はテーマを練り込んでいません。なので最近気になっていたことから書かせていただきます。ご了承を。

 最近、業務用の話をあまりしていませんね。というより、この原稿だけでなく日々の仕事の中でも会話的に減ってきた気がします。俺自身、昨今はプロジェクトから遠ざかっているので自分だけが遠のいているのかなぁと思っていたけど、冷静に考えると周りからもそういう感覚を受けます。
 確かに昨年から新ハードも出てきて、その景気に乗っ取ってグループ全体が家庭用に向いているのは事実であって、その流れからプロジェクトの数もそちらに傾倒しているのも事実です。
 でも寂しい事態です。だって俺はもともと業務用のゲームを作りたくてセガに入社していますからね。
そして昨年、俺の仕事のテーマには「業務用奮起のための方法論」というのがあったのですが、結局実現できませんでした。うーん.....。

 というわけで、今回は業務用というかゲーセンというか、ビデオゲームを外で遊ぶ事について語らせて下さい。
 さて、この雑誌を読んでいる人なら「ゲーセン離れ」なんていうキーワードにピン!とくる人も多いかと思います。要するにゲームセンターで遊ぶ人口が減ったということです。何故それが起ったのか?それについてまずは改めて考えてみましょう。
 俺が業界に入った1980年代終わり頃から1990年初頭は、ゲーセンは華々しい状態でした。
 体感ゲームが入り口を飾り、奥にはダービーやスロットのメダルの流れる音。様々なビデオゲームがズラズラ並び、同じく人気ゲームにはプレイヤーもまた列を作り「これでもか!」といわんばかりに楽しげに見えました。それが今やどうでしょう。正直な話、人が少ないですよね。なぜでしょうか?
 では最大の理由は.....とは言うものの、理由が多すぎて何が最大なのかわかりづらいです。
 代表的なところだと、家庭用ハードの性能が飛躍的に向上したこと。人気の出たゲームのカテゴリーを各メーカーがこぞってリリースしすぎたこと。ゲームセンターを経営する上で単価100円の商売がしづらくなったこと。でしょうか。問題を1つには絞れません。でもあえて言うなら、これらの問題がほぼ同時に起きたことが最大の問題点だったのかもしれません。ひとつでも結構難しい問題だと思うのですが、それが同時だと負担も飛躍的に増えてしまいますからね。
 ではまず上記で挙げた問題が、それぞれどういうふうに流れていったのか?を説明しましょう。
 業態としてゲームセンタービジネスにかげりが見え始めた時に、業界も様々な手を打ってきました。
 そしてその間にも新カテゴリー、新ユーザーも生まれました。UFOキャッチャーもそうですし、プリクラもそうです。でも1つヒットが出ると、雨後の筍のように似たものが出て、早いペースで価格戦争にもちこまれ、結果的には商品の寿命を縮めていた気がします。でもある意味で仕方ないですよ。
 ヒットが出れば、後追いするのは商売の常ですから。それにゲームセンター絶好調の時代もセガから体感ゲームが出れば、気がつくと辺りかしこにある状態になっていましたからね。それ自体は不思議はない。
 でも、以前は類似カテゴリーはそれ同士で「企画・アイデア面」の勝負をしていたのが、ある日気がつくと「価格帯」の要素が、大きく勝負に作用するようになってきました。
 これはひとえに1回100円で商売をする上での都合上、無理のない話だと思います。ゲーム本体が安い方が、単純にペイする確率が上がりますからね。でも俺が覚えているかぎりでは、この価格競争における火付け役は海外のメーカーです。
 当時、海外で売れていると言われていた機種を、試しに何種類か輸入してみたことがあります。確かに安そうだった。内容も。部材も。つまり企画面でも低投資で素早く作って、キャビネットに関しても使っている部品が安い。もちろん結果的に内容が浅く、マシンとしても故障が多くなる結果につながりやすくなる訳ですが、それでも売れている。でも値段を聞いたら、自分が考えた値段の半額以下でした。
「こりゃかなわんな...」と思いながらも、現実に海外で、低コストというキーワードをロケーションが望んでいる以上は、無視するわけにいかず、そういう観点の研究が急速に始まりました。でもなぜそんなに海外を気にするのか?不思議な人も多いかも知れないので付け加えておくと、セガに限らず当時は業務用の売り上げのうち、ほとんど大半が海外であったためです。まぁマージャンゲームとかは別ですが。
 そしてもちろん国内の他のメーカーもこぞってコストダウンについても開始しました。ここでいったん、大型化、可動化の波は一気に止み「どんなすごいことをするか?」というテーマから「見合ったコストで作る」というテーマに変わったわけです。
 ただ、当時自分としては少なからずフラグシップと呼ばれるものは、タイムリーに提案していきたい気持ちはあって、プレゼンもしていたんですが、一朝一夕に考えただけでは決め手に欠け、それ以上に、開発内部では「3D-CG」の開発がピークの時でもあり、なかなか手が回らなかったのも覚えています。
 そうこうしているうちに家庭用にも「3D-CG」の技術が求められ、SONYの業界への参加をきっかけに、ブームがヒートアップしてからは、もはやだれも業務用グラフィックについて語らなくなりました.....。
 という感じの10年間ですね。そしてこれらの問題は、未だ持ち越されたままになっています。
 うーん。苦しい。しかもこれらの問題に加えて、家庭用が加速したおかげで家庭用ゲームを作るための制作費が軒並み上がってしまった昨今では、業務用制作のパワーを家庭用にシフトさせている例も少なくありません。ますます苦しい。
 でも先程、問題の大きさに順位は付けがたいと言いましたが個人的に一番を付けろと言われたら、100円の問題ですね。家庭用との差別化、ゲームジャンルの拡張は、簡単でないにしても知恵で何とかなりそうですが、この問題だけは如何ともしがたい。貨幣価値を変えるわけにはいきませんからね。
 だって自販機のコーラが120円する時代にゲームだけが20年以上前から100円のままですから。
 でも、ここ最近でこの問題にトライし、良い結果を出しているものが存在します。
 まずはVF-NETに代表されるような遊び方。ゲームシステムとしての完成度もさることながら、ゲーム
センター側も新しい利益のもたらし方に感心している声を良く聞きます。
 ネットビジネス、カードビジネス、共に成功を収めています。そしてちょっと前ですがダービーオーナーズクラブ。これら両者に言えるのは、新しい貨幣単位ともいえるカードを遊びのプロセスの中で、上手く馴染ませたこと。やはりこれらの方法論の中に、業務用の次のステップへの鍵が存在しているようです。
でも両者とも、市況的にここまで追い込まれなかったら、ひょっとしたら出なかったかもしれません。
 そう、苦境の時ほど人間は様々なアイデアを出すためにもだえ苦しみ、面白いことを考え出すきっかけになるケースが多いとすれば、ここはひとつ、今の状況をチャンスと捉えて、型破りな事を始めるきっかけとしたいところです。そして俺も今年中こそはこの問題に対して、1つの結論を出したいです。では。
『ゲーム批評』 2002年3月号掲載
リンクマイクロマガジン社
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