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名越武芸帖
其の十六 CPU戦と対人戦(その1)
 もうこのコラムでは聞き飽きたかもしれない切り出しですが、相変わらず「忙しい」です。
 今一番忙しいのはF-ZEROですね。他にもあるけどE3ショーで実機の画面が初出展されるので気合いを入れてやっています。
 今回はレースです。車輪が無いとはいえレースである以上、ある意味でお手本にするのは実際の車のそれらになります。プレイヤーが操るキャラクターの挙動もそうですし、その他のCPUカーなんかもそれを基準にした上で作成されます。人ごとみたいかもに聞こえるかもしれませんが、何だかとても楽しみです。ウチのスタッフが、まずはどんな解釈をしてVISIONを立て、どういうものを目指すことを提案してくるのか?が楽しみなわけです。そしてそこから仕上がってきたひな形を、俺自身の考えと擦りあわせながら、作品なりに目指す最終的な形を求めていきます。大変な作業で頭が痛いのですが面白いので本当に楽しみ。車関連のCPUキャラクターなんかは本当に久しぶりですからね。基本は今までのドライブゲームと同じなのですが、何か進化させたいですからね。そこをどこに求めて、どうやって実現するのか?最近はしょっちゅう考えています。

 さてCPUキャラクター。我々も皆さんも良く「CPU」と省略して呼んでいるアレです。コレを作るのって何を基準に、というか何を考えて作っていくと思いますか?実は俺はゲーム屋さんになる前まで、これが不思議で不思議で仕方がありませんでした。どういうことを考えて、そしてどうやって作るものなのか?俺はデザイナーとして業界に入りましたが、それがものすごく知りたかったのを覚えています。
 今はゲーム関連も産業が大きくなって、情報も全般的に行き届いていますから、ある程度は皆さんもご存知だと思いますが、今回はあえてこの「CPUキャラ」と言うものに簡単に触れたいと思います。
 先程も言いましたが本当に大変だけどとても面白い仕事です。それはなぜだと思いますか?
 では今回は結論から先に述べます。最初に大変である理由とは何か?それは膨大な「トライ&エラー」を行わなくてはならないからです。
 次に面白さの基準はどこにあるのか?それは俺的にいうと「人間そのものを再発見する」作業だと思うからです。
 まず、膨大な「トライ&エラー」を行うという点はすぐに理解できますよね。(目標→実行→失敗→分析→目標修正)というスタイルをひとつの単位として、何回、何十回、何百回と繰り返しながら結論を導く作業のことです。単純に時間もかかるし分析も面倒なので、大変なのは当たり前とも言えます。基本的に全ての仕事には「トライ&エラー」は付き物ですが「CPU作成」に関してはその中でも特に強い執念が問われます。車の挙動を直すのも、与えられたパラメーターの数値を修正するだけではありません。パラメーターの項目自体も見直しますし、プロジェクト後半に入って、すでに用意されていた関数自体も変更する場合だってあります。もちろん車側だけでなく、走りの部分を大切にするために道の形状そのものを変更することだってよくある話です。面倒くさそうでしょ?そう本当に大変です。でもなぜそこまで神経を使うのか?には理由があります。我々は仕事の中で、常にそして最大限に「パブリック」が求める一般性を見つけだし、準備しておかなければいけません。別の言い方で言えば「広く受け入れられるポイントを予めコンテンツに用意しておく」ということです。予めと言うのがミソです。そう考えなければならない一番大きな理由は、我々の仕事はリリースした後に換えが全くきかない仕事だからです。

 そもそも我々はコンテンツを通してお客様と接するという、ちょっとばかりじれったい仕事の側面を持っています。なぜじれったいかって?それはゲーム制作に限らないことなのですが、お客様(ゲームプレイヤー)と直接やり取りをしない商売だからです。商品をお店に売って、そこからお客様が買って、基本的に我々の見えないところで遊ばれるという図式だからです。もっと簡単に言うとラーメン屋さん、おすし屋さんのように直接商品を取引して、結果を目で見てリアルタイムで確認できる、純然たる客商売とはちょっと事情が違うということです。
 おすし屋さんが「これは醤油はつけないで食べて」なんて言うお客様へのアプローチは我々には出来ません。我々は「醤油はつけない」とCPUに判断させたら、2度と変更はききません。直接見えない。指摘できない。修正を小まめにできないということは、きついですよ。なので商品をリリースする前に「大衆が求める一般性」つまり「最も面白いと感じられる状態」(醤油の扱い)を予想し、準備しておく作業(賢いCPU作成)が絶対条件となるわけです。
 更にゲーム制作には、いわゆるテストプレイとかデバックとか評価プロセスを通じて作品を変更・修正する機関は設けられていますが、すでに評価のできるところまで内容が出来上がっている以上、改善・修正を加えることは領域的に限界も生じます。ゲームによって単位は違いますが、おおよそのゲームが半年から1年くらいで作られていると仮定すれば、変更によってその時間の単位そのものを覆す場合だって生まれかねないわけですから更におっかない。もちろん気力、資金力、時間、等々の様々な問題を差し置いて「変更すればいいじゃん」と言いきって考えれば別ですが、現実はそうはいきません。ですからホンの小さな変更から、ズバリとボツにするというサディスティックな選択肢まで、変更という負担は制作においてとても大きな事件です。なので、いくら良い変更を思いついたとしても、時期を逸すれば、その変更すらも実現できないことだってあるかもしれません。そうならないためにも日々の「トライ&エラー」つまり転ばぬ先のつえを常につき続ける仕事は、本当に大切なのです。

 では「面白い仕事である」と言った理由は何でしょうか?前述で俺は「人間そのものを再発見する」と表現しました。なぜ俺がそう思うのかというと、俺には「我々はCPUである。」という持論があるからです。プレイヤーは人間。そして我々はゲーム機側、つまりCPUである。という意味です。ではどうやってCPUとなりえる努力をするのか?ですが、それは現実を分析して模倣してることで分かりやすく理解できます。
 またおすし屋さんを例にしますが、すし屋の商売のスタイルには色々あるようです。回転寿司もありますが、カウンターのタイプだと、最近はまず「食べれないものはある?」と聞く大将と、そうでない大将に分かれます。ゲームで言えば「セレクター」がある場合と無い場合です。最近はある場合が多いですね。更に「握りからイク?」「何が一番好き?」「塩で食べる?」等、深い質問をする場合もあります。これは更に深いセレクターに入って行く様子や、オプションでカスタマイズする様子に似ています。
 そして食べ初めて「もう一個イク?」「ワサビ多すぎた?」「焼き物でも挟もうか?」等の様子は、コンティニューを要請したり、難易度を調整したり、シナリオを分岐させたりする様子に似ています。そしてそれは客一人ひとりに対して行うことが可能です。
でも先程から言っている通り、このスタイルはすし屋だからできることです。完全に対人によるコミュニケーションを基にしていますから、CPUの出る幕は低い状態です。
 これに比べると我々はどんな客が来るかも分からない状況で、このやりとり予想して用意する、むしろ客の性別、年齢、容姿、雰囲気等から客に合った組み立てを考えてネタを出す、昔ながらの頑固すし職人の思考を求められることに似ているような気がします。では頑固職人らしく「俺のにぎりは日本一!」的な精神で、自分中心に作れば良いのでしょうか?違います。そういうところを真似るのではありません。
 「とりあえず出すもの食っとけ!」的なぶっきらぼうな職人も個人的には好きですが、今どきは流行りません。でも、ぶっきらぼうな頑固職人にも本人なりの客へのモチベーションがあるはずです。そして大繁盛のお店になる事が出来るはずです。ではどうすれば...と思っていたらスペースが無くなったのでめずらしく次号へ続く...
『ゲーム批評』 2002年7月号掲載
リンクマイクロマガジン社
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