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名越武芸帖
其の十七 CPU戦と対人戦(その2)
 前回では優れたCPUキャラクター(以下CPU)を作成するためには、膨大なトライ&エラーを繰り返し、予め受け入れられるポイントを探しだすことが大切だと言いました。それは販売してからは調整すること、おすし屋さんで言えば個人単位で好みに応じながら品物を出すようなことができないから。ということも言いました。そしてそれは人間対人間ではなく、人間対CPU(我々メーカー)と言うことを前提に「人間そのものを再発見する」という過程を通して、いかに商売をしていくのか?という所からの続きです。

 ではここからのプロセスはディレクターによって差が出ると思いますが、私の場合はおおよそいつも以下のように考えていきます。
 まず、そのゲームにとってアクション(この場合はヒト型キャラクター等の動作だけでなく、車が動く、ドットが動く等、全てのケースを指します)のキモとなる部分を、シーン(場面)として考えます。例えばドライブだと「こういうカーブがあって、そこに対してここら辺でこう自分が反応する。と車がこう反応して、そこで思わず続けてこう反応する。と徐々にこう変わって…」とか、マルチタイプの格闘ゲームだと「敵がこう囲んできて、こう詰めてくるから自分はそれをこう対処して、すると敵の動作がこうシフトするので自分は続けてこっちに反応して……」なんてことをぶつぶつ考えます。
 ようするに頭の中で、遊び方の“理想的な1シーンをショートムービーとして再現”している訳です。これが一番大事です。自分にとっては。ここが鮮やかだと、その後の話は比較的スムーズです。自分でも人に説明しやすいし、他人も理解しやすい。そして次に条件分岐を考えます。理想形は理想形として、ゲームはその前後がありますからね。そしてその前後関係のつながりを通して、理想形が再現できるプロセスに必要なモノは何かを考え、それに合わせた各種のアルゴリズム(モーション、カメラ)の基本を考えます。でもこれがなかなか大変です。まず大抵つながらない。なぜか?理由の多くは「理想形とはおおよその場合、ご都合主義を通り越して、考えた本人のエゴに近い形」だからです。でも理想形とはそれでいいと思うんですよ。自分のエゴの状態で。子供の頃、プラモデルを作ってそれを手に取って空を飛ぶ様子を再現するとき、プラモデルを動かす手つきに合わせて、口で「プッキュゥゥォオウ…..」みたいな事って男ならありますよね。あの恍惚とした状態で良いんですよ。それがホントにそう飛べるかなんて、そんな音が出るのかなんて、関係ない、自分だけがかっこいいと思える状況で。でも、そんなだからつじつまがなかなか合わない訳です。理想のドリフトがさせたくても、そのきっかけを作るための直線の走りから、感じの良い操作を経て理想形への移行そのものが無理だったり、アクションゲームで特定のコンボから次々に敵を絡めて倒す様な場面を完成させたくても、それだけは出来ても途中でインタラプトかけてモーションを分岐させると流れ自体が区切られて、イメージがぶっ壊れたりと、なかなかうまくいきません。でも、何とかしてつじつまを合わせます。でも結局、つじつまを合わせるキーは全てCPUです。CPUのアルゴリズムを駆使して、その場面の再現を目指します。どうするかというと、私はよく人間の要素を頭から外して考えます。プレイヤーキャラクターを画面から外して考えるということです。そうすれば残りはCPUだけになります。例えばアクションゲームで、思った通りにプレイしてくれない。その場合に敵の配置、動き、そしてカメラの動きだけを純粋に見ていると「あぁ、そりゃ思ったように反応してくれないわけだ」なんてことにすぐ気づくことは良くあります。
 ちなみにある程度組み上がっていれば、自分なら理想形をすぐ再現できますよ。だって考えた張本人ですからね。「プッキュゥゥゥ…」みたいな感じでね。だからできて当たり前。自然と理想が再現されるように自分でもっていっちゃう。でも肝心なのは他人がそうするかどうかです。できない場合はおおよそCPUに問題があります。そしてここでまた「人間の発見」の作業が必要になります。例えば、前後左右の順で敵を倒してもらいたいとします。どうしますか?
 ではまず四方から囲んでみましょう。そうすれば大抵正面から行きますよね。そこまでは普通。
 問題はその次です。方法は…..色々ありますよね。
 細かい説明はやめましょう。例を言うなら、プレイヤーの間合いがどこに発生するか?を観察して、そこにやられる順序を埋めていく事になると思います。もちろん間合いが悪くてうまく埋まらなければモーションを変えますし、モーションが気に入っているなら間合いを何とか埋められるエネミーCPUの動きを作ります。それでもつじつまが合わない時は、場合によっては理想から少し身を引くことも仕方ないでしょう。大抵はそうなんですけど。でも身を引きつつも、収まり良くしたい。理想の再現にコツがあるとすれば、エゴにならない程度にプレイさせる上で遊び方に幅を持たせることかもしれません。つまり、理想をゲームの企画の範疇にマッチさながらバリエーションを持たせるということです。先程の例で言えば、理想が前後左右だとしても、その順序が若干変わっても快感要素の目減りしない作りを心がけることです。そして更にその理想的な部分が、ゲームの中で何度も連続で起きても成り立つ(遊べる。クドくない。飽きない)のであれば言うことはありません。

 以上が、おおよそ間違いが少なく、プレイヤーにとってミートするポイントも増やしつつ、高いエンターテイメント性を保ったCPUの状況を再現させやすい方法です。でもちょっとヒヨった風に聞こえるかもしれませんね。理想にまっしぐらでないというか。でも、エゴとプレイヤーの満足をハカリにかけるわけにはいきませんからね。それがプロの仕事、CPU制作の根本だと信じています。でも確かに、確率は低いけど理想が奇麗に決まったときは、気持ちいいですよ。ゲーム作りの中の快感の一つかもしれない。でもなかなか出来ないんだよなぁ…

 ちょっと話がそれましたね。戻しましょう。で、これらの方法はトップダウンで発想して、ボトムからその発想までにたどり着かせるように組み上げる方法です。最も近道だと思います。ちなみに逆の発想はシミュレーターですね。そのものを再現するために必要な材料を準備して、組み上げながらまとめるような考え方。これでも良いんですが私個人としては、ある意味で“ゲームとはエキサイティングな連続写真を自分で再生をかけるもの“だと思うので、その写真そのものがどうなるべきなのか?が真っ先に気になります。なので完全なボトムアップ型の作り方はしません。多分シミュレータータイプのゲームを作るにしてもやらないでしょうね。
 でも「人間」を再認識することを楽しめない、もしくはそんなこと気にしたくない人には、CPU作成はとてもつらい作業になるかも。でもそういう人はゲームを作る資格の上で、すでに問題がありそうな気もします。

 では最後に、対人型ゲームの場合ではCPUの扱いはどうなっているでしょうか?
 対人型、つまり対戦格闘、スポーツ、通信レースに代表される人間対人間で楽しむゲームです。
 これは大きく見て2つに分かれます。分かれる基準は向きです。対戦するプレイヤーキャラクター同士の視線の向き。向き合っているモノはCPUの介入する余地、必要は、強引なルールを企画で設けない限りほとんどありません。それぞれのプログラムは、プレイヤーの操作を再現するツールとしての作りに徹することになります。でも向きが同じモノ(同じ先の視点を見て対戦する、主にレース、ガンゲーム)は順位や得点状況に応じて、それぞれ位置や敵の出現頻度やパターン等でフォローすることで、競り合いを作れるので、介入できる余地が大きいといえます。でもこの場合のCPUについても、競り合わせるための演出をCPUで補てんするために結局、人間の行動パターンを予測して組み上げていくことになるのは言うまでもありません。私は面白い作業だと思っています。ではまた。
『ゲーム批評』 2002年9月号掲載
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