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名越武芸帖
其の十九 未来のクリエーター達へ
この連載の読者の中の何人がそうであるかわかりませんが、きっと中には「将来ゲームを作りたい」と考えている人もいると思います。そんな人に向けて今回の文章を書きたいと思います。
 その前になぜ急にこのテーマを選んだのか?を言わないといけませんね。それは先日、ある学生に会ったときのことでした。彼は俺に「今、何をすればいいですか?」と聞きました。
 俺が「何を?って何のために?」と聞くと「もちろんゲームクリエーターになるためにですよ」と言うので、俺は「専門職は何なの?デザイン?プログラム?企画?」と聞くと「ディレクターかな?」というので「経験無しでディレクターってのはあり得ないから、近いのは企画だね」ということになり、俺なりにやるべきことを言ったつもりなんですが、結局、本人は全く納得いかなかった様子でした。そしてそのときあること思い返しました。それは以前から、特に学生から投げかけられる質問の中で、この「何をしておくべきか?」と言う質問の多かったこと多かったこと。そしてその回答をする度に、決まってみんな納得がいかない表情をしていたことも思い出しました。そこで今回はこの場を借りて、プロになる前に何を考え、何をすべきかをお話しするのと同時に、その理由というか真意をお伝えしたいと考えます。
 以前、またあるときこういうことがありました。あるイベント会場で20歳前後の男の子に声をかけられ、その彼は会うなり俺に切り出しました。「僕の企画を見て欲しい」一瞬考えたのですが(いい加減なことは言いたくないので)たまたま時間があったので見てみることにしました。
 全体の感想としてはこんな感じでした。内容は細かくは言いませんが、ゲームルールとしてはかなりまとまっている。でもネタが平凡。ウワモノ(キャラクターデザインや設定など)は独自に考えた物だけど、結局既存のゲームにウワモノを差し替えただけのものだけに、商品性として新規性に乏しく、また、そのウワモノもマスに対して受け入れられそうな雰囲気が見受けられず、結果、セールス的には厳しいであろう。といった感じのものでした。そしてそれをそのまま彼に言いました。すると彼はいきなり憤慨モードへ突入。そしていろんなことを俺に訴えました。
 訴える内容も結構、支離滅裂なところがあったので「どこまでどう説明しようかな」と考えていた最中、彼が最後にこう言いました。「見せる相手を間違えた」いろいろな意見があった中で、それだけは俺は大いに賛同しました。そして思わず「うん一番の問題はそこだね。結果論だけど。」と答えました。彼は「何を言ってんの?」的な表情をしていましたが、この場合の答えは簡単で、俺はあくまで俺の考え、大げさに言えば、一個人の哲学で語った結果を彼に言ったにすぎず、他のクリエーターだったら、また違うコメントをするかもしれない。いや、きっとしたでしょう。であれば、憤慨する暇があったら、さっさと次の人からコメントもらうべき、と言う意味です。ただ、おおよそゲームのことを分かっている人だったら、何人に聞いても×が○になったりすることは、まずないと思いますがね。ちょっと話がそれましたね。戻します。そして、彼は「じゃぁ他の人にも聞いてみます。では、日頃何を考えて企画を作れば良くなりますかね?」と聞きました。俺は「それは何に向けて作るかだからなぁ。うーん・・・」と悩んでしまいました。プロジェクトのサイズに見合う採算性と商品の持つ指向性や新規性がマッチしていて、技術面の目標課題も商品の求める方向性にあっていれば言うことなくて・・・なんてことをいきなり語っても、逆に彼もきっと困ってしまうだろうし・・・で、出た結論が「それを明快に言えたら、まず俺自身が自分でやってると思うよ」でした。それには彼も「そりゃそうですね。」と言う答え。何ともしっくりこない感じだったのですが、後になって俺自身、多少考え込んでしまいました。「こんな時って、何て言ってあげればいいのかな・・・・・?」これが、このテーマを考えるきっかけだったような気がします。そして私自身、紆余曲折しながら考えた結論がこれです。
「今、何をやっておけばいいですか?」それは「今、やっておくべきだって感じることをやる」ってことです。禅問答みたいですが、大切な考え方ですよ。では意味を述べますね。まず、専門職を目指すなら、専門職に必要とされる、自分で知り得た知識の範囲で予習はすべきだと思います。絵が描けないデザイナーやパソコンを初めて使うプログラマーはナンセンスです。でもここまでは誰も分かるんですよね。そしてその次のステップがたぶんみんな聞きたいところだと思うのですが、そこは想像の領域としてボンヤリさえ考えていればいいです。いやホントに。
 下手にプロ的学習効果を得ようとしても、現場にいない以上は身になりません。もちろん、企画屋さんとして企画書の練習をするのも結構です。それ自体は無駄になりません。いや意味を成すでしょう。パソコンでプログラムを組んでみることや、CGでモデルやモーションを作成してみるのと同じです。でも、何の企画を?の部分に関しては、それほど気にしなくて良い。自分が「きっと喜んでくれるはずだ」と信じられるモノを一所懸命考えていれば良いんですよ。本当に売れるかどうか?どうすれば売れるか?へのアプローチは、会社によって方針も違うでしょうし、時代によっても変わります。ですから、自分を大切に、第一に考えて、特に学生の皆さんは十二分に自分本位で考えて過ごしてください。会社組織の中のプロとしての認識を、アマチュアの段階から持つ必要もありません。そんなのは入社したらイヤって程味わえるから、心配いりません。
 そして十二分に考えたら、ひょっとしたらその時点で「自分ってゲーム作りたくないのかも」なんてことに気がつくかもしれません。それもそれで一つの収穫です。でも、その境地に達するためには、最初の段階から自分を型にはめて考えていては気が付けませんよ。そう。「何をすればいいのか?」を気にする人は、きっとこの「型」を気にしてるんだと思います。確かに気になりますし、多少の話程度にでも聞いてみたいのも理解できますが、「人から受け入れられやすい、認められやすい、手っ取り早く良く映る型」なんてものを、本気で若いウチから気にするのは変ですよ。そして何よりエンターテイメントにおいて「今からの人」が「これまでの人」より有利な点はたくさんあるんだから。俺から言わせれば、「若い」というだけで、存在自体すでに有利。もちろん「これまでの人」から学ぶべきポイントも多く存在しますが、往々にしてリスク回避の具体的手段や、考え方のきっかけの部分に対して、若干のキャリアがあるくらいですよ(まぁそこが大きいと言えば大きいんでしょうけど)。多少乱暴な言い方ですが、そもそも若い人に向けた仕事をする以上、原点を考える人は若い方が良いに決まっていると思います。では年をとるとモノが作れなくなるかというと、そうも思わない。映画なんかが良い例えですが、人生の時間を重ねていない人が語れない領域ってありますよね。そういう面で、キャリア組が意味を成す部分は大きいと思う。
 これからのゲームにはそういったテイストのモノも増えると思います。自分も最近になって、今の自分の年齢から見た目線と培ったキャリアとが、どうゲームに反映できるのか?適正な方法は何なのか?をよく考えるようになりました。また話がズレました。すみません。では最後に改めて若い人達にメッセージです。
 人間は、自分の可能性を探すような生き方をすべきではないと思います。本来はやりたいことを実現できるように努力して成し得る生き方が一番すばらしいと思う。だから、真っ先に考えるべきは「本当にやりたい」のかどうかの確認です。そしてそれは型から考えていては見えてきません。そしてそれでも「やりたい!」と分かったら、それは情熱がある証拠。その後は自分本位でいろんなことを実行して下さい。
 そして若い頃にしかできないような体験を、公私にわたって満喫して欲しいです。それで十分。向いているかどうか?も確かに気になります。でも俺からすれば、才能以上の情熱を感じさせる人が良い作品を作る人だと信じています。ではまた。

『ゲーム批評』 2003年1月号掲載
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