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名越武芸帖
其の二十六 「語り合ってる?」

 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。この号は2月売りですから変な感じかもしれませんが、前号で挨拶し忘れたので。
 昨年末、デジキューブが倒産してしまいました。流通の喪失は業界的にも印象が悪く、一時的ですがゲーム株が軒並み落っこちました。結局、時代が変った象徴のような出来事です。当初この会社ができた頃、国内のゲームの売り上げは今ほど悪くもなく、むしろ24時間ゲーム販売ができることに売り手も買い手も喜んでいました。が、時が経ち、気がつくとネットでゲームが買えるようになり、コンビニと比べれば値下げ幅も圧倒的に大きい既存のゲームショップも存在し、中古屋さんなんかもたくさん出現した現在ではコンビニ流通の需要は低くなりました。またコンビニでゲームを購入するユーザーの昨今の売れ筋もパチスロのソフトなんかが多い様子は、かつてのユーザーがコンビニ販売から離れていったことを物語っており、結果、ゲーム業界不景気の締め括りのような出来事となってしまいました。やはり寂しいですね。色々考えてしまいます。ではそんな流通の出来事の裏側で、制作の現場はどうなのか?では今回は制作現場の現状に触れてみましょうか。ではセガを簡単に例に取りつつ全体的なお話をしましょう。

去年のセガ再編は何を目標としていたか
 セガは2003年にスタジオ再編を実施しました。ご存知の方も多いと思いますがちょっとだけ説明すると、セガは数年前から分社制を施行しています。当時、本社の中の10コの研究開発「部」だった単位をそのまま会社として独立させ、10コのスタジオとしたのがスタートでした。
 しかしそこからは皆大変。慣れない社長業をトップクリエーター達が何とかこなす奮闘の日々。見慣れない数字に触れ、制作と経営の狭間で色んな経験をしました。そして2年以上の歳月が経ち、幾つか具体的なメリットとデメリットを皆が理解しました。まずメリットとして“数字の感覚が身に付いた”“会社業務の流れをくまなく理解できた”“マーケットに関する知識を増やす機会が増えた”ということ。デメリットは直接的なものではありませんが“予算への意識が強くなったのはいいが、PL(1年度内の収支)を2種類(セガ&スタジオ単体)意識するのが大変”そして“クリエイティブとビジネスの両面を全てのクリエイターがバランスよくこなせるとは限らず、むしろ苦手なものを意識させることはマイナスも大きい場合もある”ということでした。そして「分社制度を見直すべきではないか?」等の意見を含め、喧々諤々様々な議論がありました。例えばもし分社制度をやめて本体に吸収すればデメリットとされる部分は解消されるかもしれません。が、デメリットと背中合わせのメリットの部分も同時に失う可能性があります。それは果たしてどうなのか、振り出しに戻るだけでは…..?とか。非常にデリケートな問題ですからね。それはそれは沢山の議論がありました。しかし最終的に、まず本当に分社制自体が問題なのか?ではなく、それ以上に解決すべきことがあるのでないか?
 と言う疑問にたどり着きました。そこで再編(分社同士の統廃合)となった訳です。狙いは色々ありましたが、ひとつにはこれから求められるコンテンツ作りに対して様々なコンセプトを決め、それに見合った組織を作りなおすことでした。もちろん結果はこれからですけどね。ちなみに分社制の是非については今現在もセガは分社制ですからね。そのメリットを大きく感じているので継続しています。ただ現時点でこれだけは言えます。分社制でもカンパニー制でも単体統一型でも、全てにメリットとデメリットがあると思いますし、言い換えればどの制度でも成功と失敗の確率を多いに含みます。なので会社が「このやり方で行こう!」と決めたなら、それでO.K.です。ただ最終的にどのやり方をとるのか?を会社が判断をする時、必ず何らかの判断基準があるはずです。その決め手は何かというと、まずその会社の気質や風土、文化に因るところが大きいです。
 更に加えるならトップの考え方。でもいかなるケースであっても、定めた制度に対してそのデメリットをどうカバーするのかを具体的に施策できないとダメです。それが一番のキーですよ。ちなみにここ数年ではセガ以外でもカプコンさんやナムコさんも組織改編はされたようですがそこら辺はきっと苦労されてるんだろうなぁ。でもこうやって文章にすると結構簡単ですが、組織の再編は実際には本当に大変な作業です。そして失敗すればとんでもないリスクにもつながります。
 でもそんなリスクを背負ってまで行おうとする裏側には、メーカー各社が来るべき時代への臨戦態勢を整えることに真剣になってきたということです。
 で、ここまでが去年までの大きな仕事でした。

新たな世代間の「コミュニケーション」を

 でも組織さえ変えていけば作品がドンドン良くなるのでしょうか?やはり中身が変らないと。つまり人の意識が変わらないと意味がない。
 そしてここから先がこれからの仕事です。
 そのために何をすべきでしょうか?いわゆる社員教育?マニュアル作り?もちろんそういう事も大切かもしれませんが、一番大切なのは「もっとマーケットに調和させるために、まず組織内の調和を目指すこと」と考えます。当たり前すぎます?昔はゲームメーカーに勤めた以上は、まずゲームを知ることが全てであり、それが最初から最後まで最も必要なスキルとされていた気がします。クリエイターはゲームを考え、ゲームで世の中を振り向かせることに必死だった時代はそれで良かったのかもしれません。しかし我々の職種は徐々に時代を反映する嗜好性の賜物と変わり、また近年のユーザーの動向から将来を考えれば、ゲームのためにゲームを考えること以上に世の中に対するゲームの役割そのものを理解出来るかどうか?が、クリエイターにとって重要になってきています。しかしそこをどう理解させるためには、ゲーム以外のことを感じ取れる感性をスタッフに養わせなくてはなりません。それには結局「コミュニケーション」が重要です。ではそれは誰と誰とのコミュニケーションなのか?
 それは「キャリア組」と「若手」とのコミュニケーションですよ。
 現状、おおよその会社ではキャリア組の仕事のイメージは「技術」と「マーケティング」を教えることだと思います。でも、ただ「教える」という仕事だけで良いのでしょうか?俺はキャリア組の仕事とは、決して技術やマーケットのデータを教えることだけではないと思います。そこにはきっと仕事の社会的意義や、エンターテイメントを生業にする上での哲学に触れてくことになると思いますし、例えばマーケティングデータ一つとっても、若い人とお互いにそのデータをどう感じ、どう分析し、何を結論とするのか?を語り合うものだと思います。語り合うことで初めてお互いの目線も理解できて、考えていることや伝えたいことを整理できて、最も良い伝え方を工夫する様になるからです。
 きっとそのプロセスからキャリア組も「教わる」ことも沢山あるはずですし、本来の理想である若い発想をキャリアで育てることへの第一歩につながるのだと思います。でもゲームメーカーには、この部分が一番足りない気がします。気のせいかなぁ?でも色んな会社の人の話を聞くと、制作において世代間の調和が取れていない気がしてならない。
 相変わらず業界全体的に「上」が考えたモノを「下」が作る的なイメージが続いている状況というか…..。

 で、今回一番言いたいことです。俺は「組織がダメだから」という言い訳は大嫌いです。でも作品の内容には、組織とその管理に起因する部分が確かに存在します。本来、組織の在り方とその中でのコミュニケーションの方法論は一つではなく、時代とともに大きく変化して然るべきだと思いますが、俺はその当たり前の部分を業界は今まで以上の勇気をもって見直すべきだと考えています。
 ゲーム産業はまだ発展途上です。そして技術と流行が変わり続ける限り、ある意味で永遠に発展途上の状態だと思います。そして変化のスピードはどの業種よりも早い。我々の業界はそういう宿命を持っています。
 だとすれば、その環境も同じくダイナミックに変化できるフレキシビリティーと勇気が必要なはずです。業界の宿命に応えるためにも。
それに対応できて初めて、世間を肌で感じ、自分はどうすべきかを考え、信じた道に勇気を出しで進みたいと願う「パイオニア」を育み、商品に具現化できる組織が誕生すると信じています。世代間の「コミュニケーション」を大切にして、パイオニア精神を保ちながら中身はしっかりした物を作って、市場を盛り上げて貢献する。それを大手に所属しながら証明することが俺の今後のテーマです。がんばります。ではまた。
だるまに願をかけてます。今年の終わり頃にはもう片方の目に立派な黒目が入ることを祈りつつ。
だるまに願をかけてます。
今年の終わり頃にはもう片方の目に
立派な黒目が入ることを祈りつつ。

『ゲーム批評』 2004年3月号掲載
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