■家庭用ビデオゲーム市場を独占していた日本
20年前、世界でヒットする家庭用ゲームソフトはほぼすべて日本製でした。
それ以前の一時期アメリカに存在した家庭用ゲーム機市場は、1982年のアタリショック*で崩壊し、アメリカの制作会社は暗黒時代の中です。
そこへ、日本発のゲーム機が登場します。1983年のファミコン発売です。以降、日本のゲーム開発会社の多くは任天堂のクオリティコントロールの元、良質のソフトを投入していきました。良質のソフトの見返りに市場から豊富な資金を得て開発された日本製ソフトは、他国のソフトを圧倒していました。セガもメガドライブでアメリカ市場において好勝負を展開したものでした。
1990年代半ばまで、世界のゲーム消費者にとって面白いゲームというのは日本から船に乗ってやってくるものだったわけです。そして、当時のソフトラインナップを考えて見ればわかりますが、家庭用ゲームというのは子供が主なターゲットでした。
■家庭用ビデオゲーム消費者の加齢と、各国での適応放散
ポケモンのヒットからわかるように、現在の世界の子供は同じゲームを受け入れてくれます。子供というのは、日本欧米はもとより、イスラム圏ですら同じソフトを面白いと感じるようです。
しかし、人間は年をとります。
ゲームをする習慣を持って育ってきた30歳の人間に、「スーパーマリオをやりたいか」、と聞けば、多くは「やりたくない」と答えるでしょう。
じゃあ何を、と聞けば、ガチガチのファンタジーRPG、戦車の砲塔から硝煙のたなびくSLG、その他答えは千差万別です。
ある程度年をとると、個人ごとにゲームへの嗜好が大きく分かれ、国・地域による消費者の嗜好のずれも目立ってくるのです。
日本とアメリカで言えば、この嗜好の違いとは、銃撃戦や暴力への興味の違いです。実際に銃器に触れる機会が多く、軍隊も身近な存在であるアメリカ人と比べ、日本人はミリタリーに興味を持っても、せいぜい第2次世界大戦や戦国時代が中心です。普段目にする暴力も、めったに流血の事態にまで至りません。しかし、アメリカでは、銃器と流血はもっと身近です。
今、日本発のゲームがアメリカの市場の伸びに比べてシェアが縮小傾向にあるのは、成人消費者の増えたアメリカ市場に生まれたこのずれが大きく影響しているのではないかと思います。
アメリカの、年齢層の高い消費者に対して、日本の開発会社は、求めるものをうまく提供できていないかもしれません。アメリカ人は、自分たちの嗜好を満たすゲームを、自前で作るようになったわけですね。
ここではアメリカを例に出しましたが、各国・地域それぞれの消費者の求めるものを活かしたゲームが、これから先、多く出てくるでしょう。次はアジア地域などから、日本製とは違う嗜好を満足させるヒットゲームが生まれてくるのではないかと思います。
ゲームの国際化が、進みつつあるのです。
■現在何を企画するべきか?
さて、ここまでゲーム市場の見物人のようなスタンスでここまで文章を書いてきましたが、実際にじゃあ何を作るんだ、と企画者としての話もしたほうがいいかもしれません。
道は二通りあると思います。
一つ目には、世界の成人ユーザーに共通する嗜好を満足させるものをゲームに取り入れることです。
すでに国際化に成功しているハリウッド映画、スポーツ(特にサッカー)、レース、などといったジャンルで、ゲームを制作するわけです。逆に上にあげたものにゲーム側から乗り込む、というのももちろん有効です。
二つ目には世界の子供ユーザーが共通する嗜好を満足させるものをゲームに取り入れることです。
ただし、国内市場は徐々に冷えていく市場なので、海外展開は常に意識する必要があります。
子供たちの間で国際化に成功しているのは、アニメーション、特にディズニーと日本製のアニメです。読者も知っておられるかもしれませんが、日本のTVアニメーションは、世界中で放送されています。例えばドラゴンボールは、世界中で人気です。
ゲーム発のアニメーションを世界展開するのも、アニメ自体がヒットしてくれれば強力な手法です。
■最後に
さて、ここまでゲーム市場の分析めいたことを書いてきましたが、ちゃぶ台、ひっくり返しておきます。「市場分析から企画を立てるんじゃない」と。
じゃあ何で市場なんて分析するんだ、と思うかもしれませんが、思いついた面白そうなアイデアが、現在の市場にマッチするかどうかを判断する際には市場分析が必要です。
旅行に出かける前にガスの元栓をチェックするようなものでしょうか。
元栓チェック、もっとちゃんとやらなきゃねえ、と、自分自身では思っているところですが。
それでは、駄文失礼でした。
*アタリショック 1982年のクリスマス商戦に、アメリカのゲームメーカーや販売店が軒並み倒産した事件。あふれる粗悪ソフトに嫌気が差した消費者の買い控えが原因。アメリカの家庭用ゲーム市場は、ここでいったん崩壊した。 |