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名越武芸帖
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其の十二 難しさと面白さ
 今回はゲームの難易度と面白さの関係についてお話します。実は先日、ある人が雑誌に書いている記事が気になってこのテーマを選びました。その記事にはこう書いてありました。「今は難易度が高いゲームは必要ない。難易度で売り上げも決まる」思わず首をかしげてしまいました。そうなんでしょうか?
 さて難易度。まずは言葉の意味が結構深い。英語で言うとdifficulity。それから訳すと、難度という方が正しいそうですね。難度というと思い出しませんか? 俺は体操競技を思い出します。ウルトラCとかね。C難度とか言うじゃないですか。でもなぜゲームの場合は難易度って言うんでしょうね? 体操の様に人間が体を張ってできる事の限界(難)を追求して、それを採点するというひとつの”ゲーム”において、簡単(易)な事をしていても得点は入らない以上、易しいという要素に対しては、ほとんど興味が無いに等しいですよね。どれだけ難しいことが出来たか?例えるなら「難度」という方がすっきりしています。
 だからゲームも「難度」で良いんでしょうね。まぁどうでも良いことなんですが。
 そして今回のテーマ「ゲームの面白さの鍵とは本来何なのか?」に触れていきたいと思うわけですが、結論からいうと、ゲームとは難しさを楽しむものです。そのコンテンツの難しさの演出がそのコンテンツのセールスポイントとなるべきです。でもこういう言い方をすると「じゃぁお前は何から何まで難しくて良いのか!?」と言われそうな気もするので、一応お断りもしておきますが、面倒くさいとか、解りづらいとか、思ったようにならないとか、そういったモノは肯定しませんからね。あしからず。それは難しいのではなく、内部的に出来が悪いゲームのことです。
 あくまで”インターフェイス”は整った状態(遊ぶための礼儀作法がある状態)で成り立つ話ですから。その上で遊んでみて、どのぐらいの歯ごたえというか、達成感があるのか?が最も大切です。解りますか?
 じゃぁ過去で自分が面白かったゲームを何かひとつ思い出してみて下さい。そしてそのゲームの中で特に面白かった部分は何処でしたか???
 思い出した部分は、きっと難しい要素をクリアしたことで得たモノがきっかけで手に入った代物だと思います。爽快感の部分にせよ、印象的な(心に残った)部分にせよ、です。
 入力にコツを要するコマンド打ち込みで発生する格闘ゲームの技やコンボ、RPGの謎解き、ドライブゲームのコーナリング・・・・・・そしてそれをマスターして、ステップアップして、達成感を積み重ねながらプレイを促す感覚。これでしょう。やっぱり。それに簡単だったけど面白かったというゲームってありますか?先程も言いましたが、操作が自分の感覚にマッチしていたとか、絵柄に魅かれる点があったとか、インターフェイスが簡単だったり生理的な好みで自分に響くポイントがあるとかいった事は抜きに考えて、単に「難度が低いから面白かった」ということは絶対に無いはずです。だから、ちょっと乱暴な言い方ですが、易しい事なんで美徳でも何でもありません。
一見、ゲームとしては例外的なモノに感じる、モチベーションの中心がムービーを見ることがベースになっているものや、対戦系のいわゆるゲームを対戦ツールとして使用している様なゲームでも同じことです。
 全ては達成感や征服感に似た快感を求めさせてやまない難しさがキーとなって隠れているはずです。
 でも悩むんですよね。じゃぁその「難度」とやらのハードルをどこらへんにするのか?を。
 以前ゲームの命はアイデアだ。と言いましたが、良いアイデアもゲームの難度における解釈が取り違えられると、いっぺんにつまらないモノになってしまう訳ですからね。
 ではそれを避け「難度」をコンテンツに適正に与えるためには何をするべきなのか?ですが、これに関しては表面上の策は余り多くはありません。
 表面上の策とは
1. 年齢や性別に合わせる
2. ゲームに対する理解度に合わせる(要するにマニアor素人)
3. ヒットした作品に合わせる(ちょっと間違うとパクリとも言われます)
、基本的にこれぐらいですね。まぁ3は置いといたにしても、これらを主にコンテンツのネタと狙ったマーケットに絡ませながら考慮して、難度の高さを決めていく訳です。でもこれぐらいは誰でも想像がつきますよね。
 では、それをふまえて具体的にどんな調整をすると思いますか?
 でも全てをここでは書けません。なぜなら書ききれないからです。先程、表面上の策は多くないと言いましたが、具体的な水面下の策は死ぬほどあるからです。
 少しだけ例を出しましょう。ではドライブゲームがあったとします。ルールは10レース走って、ゴールした順位で得点が加算されます。良い順位=高得点です。そして全レースで加算された合計ポイントが多いと優勝です。
ではこのゲーム、1人用だったとして、難度調整はドコにどうやって設けましょうか?触れる部分は大きく見て3つです。プレイヤーカー挙動、CPUカー挙動、コース設計です。自分が早くて、CPUが遅ければ難度は下がりますよね。逆にすればその逆になります。コースはどうでしょう?CPUはプログラムで走りますから、まずは特定のスピードを与えておいて、後はコースレイアウトが簡単なほうが自分は早く走りやすい。というぐらいですか。これについても逆もまた然りです。
 そして表面上の策に合わせ、マニア向けだとCPUの速度を早くして、コース自体も難しくして・・・・・・という調整をし、マニア向けではないものは全て逆を施して・・・・・・.でもこれじゃぁ全然ダメです。コンテンツの持つ難度の幅が狭くて、満足できる人の数を限定しすぎます。例えばレースゲーム等は確かに男の子向けです。ゲームを良く知っている人もユーザーに多いでしょう。でも「ドライブ」というネタはゲームの中ではオーソドックスなジャンルである以上、手を出すユーザーは幅広いはずです。それがF1であれ、SFっぽいテイストであれ。なので難度の調整に関してはある程度グローバルな懐の深さが欲しい。
 ではどうするかというと、最近のレースゲームでよく見られる手法では、ゲームの展開に対して様々な補正をかける考え方が一般的です。通信ドライブゲームで順位の低い車のグリップ力が上がって、速いスピードでカーブが曲がれて先行車に追いつけたりといった補正は、読者だったら知っている人も多いと思います。それに似た感じで他には1人プレイの際でも、プレイヤーが1周を回るまでに様々なデータをサンプリングして、それを2周目以降に適応させたりというケースも多いです。
 サンプリングデータの例は 1. 区間、トータルラップタイム 2. 壁にぶつかった回数と場所 3. 通ったライン 4. ブレーキを踏んだ回数と場所 5. ハンドルの切り方。等々で基本的にこの人が上手いかどうか? 下手か? ド下手か? それともメチャ上手いのか? とかが総合的に判断できます。(各データの取り方とそのデータの判断基準は秘密です)そして足りないスキル対して、何らかの(最高速、グリップ等)のフォローをプレイヤーに入れたり、CPUにマイナス要素(スピードダウンやクラッシュ)をあてっがたりします。こうすれば、同じゲームの中で、ある程度スキルのばらついた人達を面白いゲームシーンに引き込む可能性が増えます。そしてその補正の割合をテストプレイを通じて調整していく。それがオーソドックスでしょうね。ただし、ここであげた例のほとんどは既に特許化されているのがほとんどで、今でも更に進化し続けています。
 とまぁ、後半は難度の「まるめ方」のお話になってしまったのですが、もう一度言いたいのです、ゲームは難しくなくてはダメです。嫌がられてもダメです。「難しく、面白く」これが目標。
 俺に言わせれば、ゲームの難易度なんてカレーの辛さ同じ。辛すぎるからマズイ訳でも、甘いから美味い訳でもない。辛さと美味さの関係がキッチリ整っていればそれで良しです。カレーは辛いモノなんだから辛く作って「辛いなぁ」と言われながら、最後まで食べてもらって「辛かったけど美味しかった」と言われるようなカレー、いやいや、ゲームを作りたいです。では。

(『ゲーム批評』 2001年11月号掲載)
 
マイクロマガジン社 http://www.microgroup.co.jp/
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