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名越武芸帖
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其の十五 スパイクアウトの思い出
 最近ある雑誌の取材を受けていて、俺が昔作ったゲームにちょこっと触れたのですが、そこからずいぶん話が長くなって調子に乗ってずっと話していました。俺は比較的に自分の過去のゲームについては語らない方だと思うんですが、小一時間ぐらいはなしたところで、自分自身、かなりムキになってしゃべっていたのに気づきました。「なぜそこまでムキになったんだろう?」そう考えると多分、自分の中で完全燃焼していない部分があったからだと思いました。今回はそのゲームでのちょっとした思い出話です。息抜きだと思って読んで下さい。

 ゲームセンターに行ってますか?バーチャ4が人気ですね。すごい人。皆、夢中でやっています。本気で悔しがっている人を見る度に、本当に良いゲームだと思います。
対戦モノは本当に夢中になりますよね。CPUを負かすより、実際の人間が動かしているモノの方が感情移入が大きいし、車やロボットも良いけど、やはり人を模したキャラクターを負かすほうが気分的に高まります。やはり基準になるのがリアルな「喧嘩」だからでしょうね。これ以上盛り上がるファクターはありません。そしてインカムも良い。営業も喜び、プレイヤーも喜ぶ。健全です。

 では逆に嫌われるゲームとはどんなものでしょうか?それはプレイヤーも営業も怒るゲームですね。平たく言えば、つまらなくてインカムも悪いモノ。
でもかつて俺は、いずれにも属さないゲームを作ったことがあります。
結果的に言うと営業が怒り、プレイヤーが喜んだゲームです。その名は「スパイクアウト」。
 当初のタイトルは「スパイク」でした。最終的にもそれで出したかったのですが、商標調査で引っ掛かって変更しました。
簡単にゲーム概要をいうと、4台のキャビネットを通信ケーブルでつないで、アクションゲームをさせるというモノ。プレイスタイルは協力型。同一空間上のプレイヤー同士は味方であり、一つの目的に対して助け合いながらゲームを進行させるというモノです。

 当時は対戦モノ全盛時代であり、平台(テーブルタイプゲームというか筐体モノでない汎用機)のゲームはインカムを重視することで、対戦でないものはほとんどありませんでした。格闘を始め、マージャンやクイズに至るまで対戦一色の状態が定着していました。プレイヤーのニーズと業者のニーズがマッチしていたわけですから、文句はありませんでしたが、営業的に画一的な空間の状態を見ていると、無性にムズムズしたのを覚えています。
そんな最中、新作ゲームのネタを考えていた俺は、いつもこう考えていました。
「品揃えが偏っているこういう状況にこそ、違う別の価値観を盛り込んだ商品を提案してみたい。」そこから考え出したのがこのシステムでした。

 でも開発を始めて、すぐに壁にブチ当たりました。「どう考えてもインカムが悪い。」対戦モノを基準にすれば、対戦しない商品はプレイヤー同士でゲーム時間の削りあいをしてくれない以上、インカムは低くなる。さらに協力型なんて、お互いのゲーム時間を延ばしあう訳だから、一層インカムは落ちる。
 そこで色々考えました。時間制、ステージクリア時の基準スコア制、基準体力制等々。でもプレイヤーのゲームを時間で切ったり、御都合主義で数値を決めて、ゲームを続けられるのかどうかを線引きするのは、どうしてもイヤでした。そして最終的に製品の形に落ち着けました。
理由は、ユーザーの喜びも程々、営業の喜びも程々、そんな商品は作りたくない。今回に関しては我々はユーザーを大切にする。逆に言えば会社に泣いてもらうことに。これを崩すと、どっちつかずの製品になるから。でも、言うのは簡単で格好良いんですが、何よりそういう商品を許してくれたセガには、今でも感謝しています。

 ちなみに「スパイクアウト」は「デジタル・バトル・オンライン」と「ファイナルエディション」がリリースされたのですが、実は幻の「パーフェクトエディション」と言うものが、俺の中では存在していました。マップを更に広大にし、シナリオイベントによって話し合いで、4人が2人づつ手分けして別のルートを探索しながらある地点で合流したり、場合によってはその分け方が1対3になってみたり、4人別々になってみたり....更に合流時間がきっちり合えば、シナリオが分岐したり...敵も天心の親父さんが登場したり、スパイクがボクサーの頃のライバル=現世界チャンピオンでかつ、裏ボクシングチャンピオンが...とか、4人の素性が見えてくるシナリオもたくさん考えていました。

 くやしいなぁ。書いていてだんだん腹が立ってきた。まぁでも、それを製品化する術(プレイヤーと営業の問題のクリア)を思いつかなかった俺が悪いだけなので、自業自得なのですが。
そんな感じで色んな勉強をしながら、たくさんの経験と思い出の詰まったゲームなのですが、でもこのタイトルを作っているときの一番の思い出は、とても小さく、ある意味で地味な出来事でした。このゲームのボタンの名称は当初、はシフト、アタック、チャージ、ジャンプでした。
インストラクション上では、S、A、C、Jです。でも最終的にはシフト、ビート、チャージ、ジャンプと直しました。つまりS、B、C、Jです。
なぜだと思います?ちなみにAボタンとは攻撃ボタンのことなので、アタックという表現の方が一般的なはず。なのに、あえてビートという名称にしました。

 このゲームの場合、4ボタンを使用してゲームをします。もちろんボタン単発押しで機能するアクションもありますが、アクションのバリエーションを持たせるために、いわゆる同時押し操作もプレイヤーに要求します。2つ同時押し、3つ同時押しとか。そして最初のボタン名称の配置では、プレイヤーがAとCの同時押しを求められた時、AとCという一つ飛ばしのアルファベットを用いているのにかかわらず、真ん中の隣同士のボタンを押させるのって、変だと思いませんか?

 ボタンが4つ並んでいて、何の前情報もなく「AとCを両方押して」といわれたら、きっとほとんどの人が一番左、そして一つおいてその隣のボタンを押すと思うんですよ。でもAをBに変えておけば「BとCを両方押して」と言われたら、真ん中2つを押してくれると思います。だからわざとアタックという呼び方をビートに変えました。

 これに最初に気づいたのは、スタッフの一人でした。ちなみに彼は、最初はプレイヤーがレバー下とAとCの同時押しでアイテムを拾うという操作を、いまいち使いこなせてないことを気にしていました。

 今思えばそれがきっかけで、ある日彼から「そもそも真ん中2つにAとCを割り当てることはおかしい。感覚的に気味が悪い」ということを言われて、言われてみれば正にその通り。それを機に考え直すことにしました。例えばシフトという言葉もやめて、左から順にABCDと記号を割り付ける案も出ました。が、それでは安直だし、何より我々はカメラを任意に固定させながらスムーズにゲームをさせる「シフト」というボタンのシステムに自信があったし、俺もこのシフトという意味の深さを気に入っていました。なので、この言葉は変えたくない。ジャンプもできればJにしたいし.....うーん。と悩んでいました。そして、とりあえず大きく欲張るのはやめて「AとCの一つ飛ばしのアルファベットを両隣におくことだけは避ける」と言うことだけに集中して考えました。では理想は何か?それは真ん中2つがBとCであること、Cはチャージで確定している。では問題はB。そして辞書を調べて、パンチ→殴る→連打→叩く→やっつける→というニュアンスからBeatにたどり着いたわけです。うそのようですが本当の話。こういうこともスタッフは気を使ってるんですよ。この配慮自体がこのゲームが愛された直接の理由ではないかもしれませんが、頑張って気を使ってコンテンツの中身のことを考えていたからこそ、こういうところにも気がつけるんでしょうね。そして小さなことですが、こういう目線は物作りを続けていく限り、俺もずっと保ちたいものだと今回これを書いていて改めて思いました。またこういうゲームを作ってみたいなぁ。いえ、もちろん次はプレイヤーも営業も喜ぶ姿を目指しますよ。ではまた。


(『ゲーム批評』 2002年5月号掲載)
 
マイクロマガジン社 http://www.microgroup.co.jp/
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